2025.09.09

サザビーリーグの担当者が集まる社内ピッチイベントを開催。AIモデル、縦型EC、基幹システム、リユース梱包・・・コマース領域のスタートアップが登壇。

The SAZABY LEAGUE STARTUP INNOVATIONSとNew Commerce Ventures株式会社は、2025年2月10日に「第2回 The SAZABY LEAGUE ピッチ」を開催しました。

The SAZABY LEAGUE ピッチは、株式会社サザビーリーグ社内に向けたスタートアップのピッチイベントです。サザビーリーグが展開する各ブランドの担当者が参加し、スタートアップとの共創の機会を探りました。

 

 

スタートアップのピッチに先立っては、共催であるNew Commerce Venturesから、ニューヨークで開催された世界最大級の小売業界展示会である「NRF2025」のレポートを実施。「店舗価値の再定義」「ソーシャルコマース」「リユース・リコマース」といったテーマが共有され、世界のリテール事業の最先端を知る機会となりました。

 

NRFの紹介は、サザビーリーグ DX推進室室長とNew Commerce Ventures 大久保洸平氏の対談形式で実施しました

 

 

以下ではピッチをしていただいたスタートアップをダイジェストで紹介します。

 

※ 以下の(※)はサザビーリーグから出資しているスタートアップです。

※ 情報はすべてピッチ時点のものです。

 

 

① 生成AIを活用したファッションモデル「AI model」

AI model株式会社(※)

https://www.ai-model.jp/

 

AI model株式会社 代表取締役CEO 谷口 大季 さん

 

AI model社は、AI技術でファッションモデルやタレントなどを生成するシステムを開発しています。生成されたAIモデルはアパレルのECサイトやカタログ、広告クリエイティブ、テレビCMなど、様々な場面で活用可能です。

従来の生身のモデルでは、商品を一定数集めてから撮影する必要があったため、タイムリーな撮影が難しいという課題がありました。しかしAIモデルを活用すれば、リードタイムの大幅な短縮が可能となりますし、ブランドのテイストに合ったモデルを起用できるようになります。

 

AI model社は様々なAIモデルの生成サービスを提供していますが、使い方の一例は以下の通り。まずブランドが用意した洋服を特殊なマネキントルソーに着用させます。すると、システムが当該商品だけを切り抜いた画像を生成。その画像にAIモデルを生成し、様々なポージングや背景をつけた画像を作成します。モデルを様々な年代や人種へカスタマイズすることももちろん可能です。AIのモデルと実物のモデルの共存や、ファッション業界の発展を目指します。

 

 

② デジタル広告制作のPDCAに特化したツール「リチカクラウド」

株式会社リチカ(※)

https://richka.co.jp/

 

株式会社リチカ 代表取締役 松尾 幸治 さん

 

デジタルプロモーション領域でAIとクリエイティブを掛け合わせた事業を展開するリチカ。クリエイティブエージェンシーや広告代理業として、これまで累計2,000社以上のプロモーションを手掛けてきました。

 

そのリチカが開発するのは、動画やバナーなど広告制作にかかる制作にかかるコストをAIで削減する「リチカクラウド」。URLを入力するだけで動画や画像をワンストップで制作します。

 

URLから商品情報を自動で分析し、ターゲット像をAIが推測。プロモーションの方向性を指示すると、キャッチコピーやランディングページ、動画広告の構成案が提案されます。もちろん、これに修正を加えることも可能で、慣れれば当該構成案を修正するだけで、10〜15分程度でコンテンツを量産できるようになるとのことです。

 

 

③ 縦型ECを簡単に導入できる「Smart EC」

株式会社SmartEC

https://smart-ec.io/

 

株式会社SmartEC 代表取締役 山下 健志 さん

 

SmartEC社が提供するのは、カートシステムを変更せずに既存のECを「縦型ECサイト」に変換するサービス「SmartEC」。TikTokやリールのようなフルスクリーンで縦スワイプする体験をECユーザーに提供します。なお、便宜的にECサイトと呼んでいるものの、SmartECはカートシステムではなく、あくまで「スマホ向けのLP」を作るイメージのサービスです。このUI技術は特許も取得しています。

 

SmartECを用いて提供される縦型ECサイトのUIは「上にスワイプすると次の商品へ」「横にスワイプすると同じ商品の別画像が見られる」という仕組みになっています。画面右下のボタンをクリックして商品詳細ページに遷移することも可能です。

 

この仕組みを提供するメリットは、顧客体験の向上にあります。通常のECサイトでは、商品一覧の画像サイズが小さくなってしまい視認性が悪いことも珍しくありません。しかしSmartECはフルスクリーン表示に最適化。ページ表示速度も非常に早く、また詳細ページに遷移せずとも横スワイプで他の画像やカラーバリエーションが見られる点も特徴です。

 

 

④ コミュニティ専用オウンドプラットフォーム「OSIRO」

オシロ株式会社(※)

https://osiro.it/

 

オシロ株式会社

コミュニティ・プロデュース部 部長 辻村 孝嗣 さん

 

オシロ株式会社が開発しているのは、コミュニティ専用オウンドプラットフォーム「OSIRO」。世界観の表現、サブスクリプション、コミュニティマネージャーのAI化を特徴とするサービスです。

 

オシロが目指すコミュニティは、1:nの関係ではなく、ファン同士が横に繋がるもの。横の繋がりを広げることで、より深いエンゲージメントを生み、ひいてはブランドの価値を高めます。スタッフが顧客と直接繋がることで、モチベーションが向上し、新しいアイデアを生むきっかけとしたり、より強固なファンベースを構築するきっかけになったりと、コミュニティの運営は企業にとっても大きなメリットがあるそうです。

 

例えばDEAN & DELUCAのコミュニティ「LIG」では、熱量の高いファンが集まり、料理教室を開催するなどして、ファン同士がリアルにつながる機会を提供。通常、店舗イベントはその場限りのものですが、コミュニティを通じてオンラインでも継続的に交流を続けることで、ファンの熱量を持続させる仕組みとなっています。「手帳を書く」ことに特化したコミュニティが、ユーザーの継続率を向上させているという事例も生まれているそうです。

 

 

⑤ EC基幹システムのデータ連携SaaS「CoreLink」

株式会社ハックルベリー

https://huckleberry-inc.com/

 

株式会社ハックルベリー 代表取締役CEO 安藤 祐輔 さん

 

ECに関する課題には、データ統合、保守・開発コストの高さと要件定義の難しさ、ベンダーの分断などが挙げられます。これらの課題を解決するために創業されたのがハックルベリーです。

 

同社は事業企画・構築事業、SaaS事業、グロース事業を展開するスタートアップ。今回は18のShopifyアプリを開発しているSaaS事業の中から「CoreLink」を紹介いただきました。CoreLinkはEC基幹システムのデータ連携SaaSで、各ECカート・モールとの連携をワンストップで実現するサービス。多大なリソースやコストがかかる、商品・在庫、顧客、売上、受注データの基幹システム連携問題を解決します。CRMツールやMAツールの変更をスムーズにする点も、CoreLinkの特徴です。

 

 

⑥ SaaS型小売基幹システム「SQ」

株式会社Stack

https://stack.inc/

 

株式会社Stack 営業責任者 大原 祐太 さん

 

Stackは大きく「Shopify事業」と「基幹システム事業」を運営するスタートアップです。

 

Shopify事業では、まずShopify向けモバイルアプリ構築サービス「Appify」を運営。Appifyを利用すれば、Shopifyを利用してモバイルアプリを簡単に作成でき、ネイティブアプリを開発するよりも大幅にコストを削減します。またStackは会員プログラム「VIP」も運営。顧客が店舗やECでポイントやマイレージを獲得できるようにして、サービスの顧客評価を高めます。

 

ところで、様々な理由でShopifyを利用できないという大手ブランドは少なくありません。その最大の理由が「基幹システム」です。そこでStackはSaaS型基幹システム「SQ」を開発しました。在庫管理、出荷管理、注文管理、顧客管理、売上分析などの機能を提供し、ShopifyやPOSシステムとの連携も可能。2025年2月には同社の株主でもあるTSIホールディングスが、公式オンラインサイトである「mix.tokyo」へ導入しています。これにより同社はEC運用のコストを大幅に削減する見込みです。

 

 

⑦ ポストに返却できるリユース梱包「シェアバッグ」

株式会社comvey(※)

https://comvey.jp/

 

株式会社comvey 代表取締役 梶田 伸吾 さん

 

ECが普及するにつれ、ダンボールなどの梱包ゴミが増えています。ゴミ処理の負担もありますし、環境負荷を気にする消費者も少なくありません。そこで登場するのが、comveyが日本郵便と共同開発したポストに返却できるリユース梱包「シェアバッグ®︎」です。

 

サザビーリーグでも「Madhappy」「agete」「NOJESS」「LAMBDA」などのオンラインストアに導入されており、多くの顧客に利用されています(comveyの導入ブランド一覧はこちらから)。

 

シェアバッグはEC事業者が繰り返し使えるエコな梱包材です。消費者がシェアバッグを導入しているECで買い物をすると、普通のダンボールかシェアバッグのどちらかを選択可能。シェアバッグを選んだらそれに包まれて商品が届きます。バッグの内側に付いているQRコードからcomveyのマイページにアクセスすると、次回の買い物で使えるクーポンを取得可能です。最後に、バッグを折りたたんで郵便ポストに投函。シェアバッグはcomveyに返却されるため、梱包ゴミが発生しない、というわけです。

 

シェアバッグは100回以上利用でき、クッション付きのバッグを使えば化粧品や雑貨類にも使用可能。どのバッグがどこにあり、誰が持っていて、何サイクル目で、どれくらいのCO2を削減しているかといったデータも把握できるようになっています。

 

シェアバッグを導入したECでは物流コストやCO2の削減に加え、消費者のストレス解消、購入単価やリピート購入が増加といった効果も生んでいるそうです。

 

 

⑧ 資源循環サービス「PASSTO」

株式会社ECOMMIT(※)

https://www.passto.jp/

 

株式会社ECOMMIT 事業開発部 ゼネラルマネジャー 大音 まり絵 さん

 

不用品の回収・選別・再流通のインフラを構築する循環商社であるECOMMITが提供するのが、資源循環サービス「PASSTO(パスト)」です。国内で年間約747万トン、15億着廃棄されているという衣類を回収し、リセールに回します。

 

PASSTOでは、ECOMMITが不要になった衣類を店舗や郵送で回収し、選別した後、リサイクルして国内外に販売。既に年間約1.2万トン、3500万枚以上の衣類や雑貨を回収しており、リセール店舗やオンラインで再流通済みです。可愛いだけ、かっこいいだけでは売れない時代に「サステナブル」を購入の動機として消費者に届け、サステナブルな取り組みをコストではなく成長事業として収益性のあるビジネスに変えていきます。

 

またECOMMITは「Wear to Wear」の取り組みとして、ポリエステル100%の商品を回収し、再利用可能な形に戻す技術も活用しています。三星毛糸社と共同で、ウールのリバース技術も商品化。素材回収と選別を通じて得られたデータを活用して、新しい商品の研究開発も積極的に進めていきます。

 

 

以上、登壇していただいたスタートアップ8社の紹介でした。

 

 

ピッチの後にはスタートアップとサザビーリーグの各ブランド担当者の懇親会を実施。相互の現状の課題を認識し、早速アポの予定も入っていたようです。

 

The SAZABY LEAGUE STARTUP INNOVATIONSは今後もスタートアップとサザビーリーグを繋ぐ役割を担い、オープンイノベーションの創出に貢献していきます。

 

(執筆:pilot boat 納富隼平、撮影:日野 拳吾)

 

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